『マダム・べー ある脱北ブローカーの告白』

北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威が連日報道されているが、今月はある脱北女性の過酷な運命を追ったドキュメンタリー映画『マダム・べー ある脱北ブローカーの告白』をご紹介。監督は韓国・プサン出身で、フランスで映画を学んだ1980年生まれの新鋭ユン・ジュホ。一見、一人の脱北女性の足跡を淡々と追った記録映像のようだが、終盤思いがけない展開を見せる「事実は小説より奇なり」な作品だ。


中国東北部で脱北ブローカーをしている中年女性B。もともとは彼女も、外貨稼ぎを目的に、中国にやって来た脱北者だ。1年ほど中国で稼ぎ、また戻るつもりだったBは、北朝鮮に夫と2人の息子を残したまま。しかし彼女は脱北ブローカーに騙され、貧しい中国人農夫に売られてしまう。

 

映画は、皮肉にも自身も脱北ブローカーとなり、中国でたくましく"仕事"をこなすBの映像から始まる。Bは売られてきた地で懸命に働きながら、北朝鮮の夫と息子たちを韓国へ脱出させていた。同じ民族の国とはいえ、脱北者が韓国で暮らしていくのは容易ではない。息子たちの生活を安定させるべく自分も韓国へ行くことを決意したBは、中国の夫やその家族の了承を得て、ラオス、タイを経由する過酷な脱北の旅に再度挑む。

 

Bを取材していたユン監督は、"どさくさ紛れ"でこの東南アジア経由の旅に同行することになったらしい。「持ってる」というか、その道中の様子だけでも1本ドキュメンタリーが出来上がってしまいそうな展開だが、この映画が面白いのは、Bが韓国に渡ったあとの展開だ。本物の家族が団らんし、幸福なときを過ごせるのかと思いきや…。  鑑賞の楽しみを削ぐので言及は差し控えるが、人間の運命とは数奇なものだと思わざるを得ない。そして、本当の幸せとは、愛情とは何なのかと考えさせられてしまう。


舞台が韓国へ移ったときの転換に使われるソウルの街の空撮映像と、それに被さる反共スピーチの音声が、その後のBの変化を予感させる不穏な空気を醸し出す。ドキュメンタリー映画のなかに、一瞬観客の心をざわつかせる演出を仕込んでくるあたり、この若い監督のセンスの良さを感じる。

 

 

『マダム・べー ある脱北ブローカーの告白』
英題:MRS. B. A NORTH KOREAN WOMAN
監督:ユン・ジェホ 
撮影:ユン・ジェホ、タワン・アルン
配給:33 BLOCKS 
6月10日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
www.mrsb-movie.com

(C)Zorba Production, Su:m

 

執筆者=新田理恵(フリーライター&エディター)



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