『グレートウォール』

2月に行われた米アカデミー賞の受賞式で、マット・デイモンが司会者を務めたジミー・キンメルにいじり倒されたことが話題になった。ジミーに「8000万ドルの赤字を出した中国のポニーテール映画に出演」とからかわれたマット。晴れの場で「失敗作認定」されてしまったこの可哀想な「ポニーテール映画」というのが、中国映画界の巨匠チャン・イーモウのハリウッド・デビューとなる米中合作映画『グレートウォール』だ。


映画のストーリーはこう。中国では古代から、60年に一度、謎の怪物の大軍の襲撃を受けていた。「万里の長城」建造の最大の理由は、怪物の攻撃を防ぐためであり、長城防衛の命を受けた「禁軍」が日夜鍛錬を重ねている。そこにたどり着いたのは、金と名声を得るため、火薬を手に入れようとにシルクロードを越えて中国にたどり着いた傭兵ウィリアム(マット)。禁軍にとらえられたウィリアムは、禁軍の戦いぶりを目の当たりにし、共に怪物と戦うことを決めるーー。

 

中国でも本作は、ヒットこそしたものの酷評する声も多く、論争を巻き起こした。たしかに、タイトルから重厚な歴史絵巻を想像して観ると、その「トンデモ」ぶりに呆然とするかもしれない。だが、端から長城という巨大遺跡をバックに凄い映像を撮ることに命を懸けたド派手なアクション・ファンタジーだととらえると、かなり楽しい。たしかにストーリーは薄いけど、もはやそれは重要でない。北京五輪開幕式を指揮したことでも知られるチャン・イーモウ監督ならでの思い切った演出と色彩センスが堪能できる超大作なのだから、映画館の大きなスクリーンで観ないともったいない。

 

マットをはじめ、中国側キャストは華やか。中華圏の大スターであるアンディ・ラウ、『追捕MANHUNT』(原題)で福山雅治と共演するチャン・ハンユーのほか、エディ・ポンやケニー・リン、ホァン・シュエン、元EXOのルハンなど、現在、中国で絶大な人気を誇る旬の若手が勢揃いしている。


紅一点は中国の女優ジン・ティエン。英語のセリフもそつなくこなし、凜々しい女指揮官を好演している。公開中の『キングコング:髑髏島の巨神』や来年公開予定の『パシフィック・リム』続編にも出演している注目株だが、先月発表された中国版ラジー賞「金掃箒(金のほうき)奨」で「最も失望させた女優」に選出されてしまった。順調すぎる世界進出へのやっかみか、彼氏が米レジェンダリー・エンターテインメントを買収した大手映画会社・万達集団(ワンダ・グループ)の大株主という噂からか、過小評価されているようでちょっと気の毒である。


『紅いコーリャン』や『初恋のきた道』こそチャン・イーモウの映画だと思っている映画ファンは、がっかりする作品かもしれない。しかし、チャン・イーモウはそもそも自分の芸術性を追求するというより、新たな可能性に果敢に挑み続ける職人タイプの監督だと思う。巨額(1億5,000万ドル!)を投じたハリウッド大作で勝負できる映画監督は、今の中国で彼の他にはいないだろう。とにかく百聞は一見に如かずなので、酷評を恐れずぜひ劇場へ。

 

 

『グレートウォール』
原題:The Great Wall
監督:チャン・イーモウ
出演:マット・デイモン、ペドロ・パスカル、ウィレム・デフォー、
   ジン・ティエン、アンディ・ラウほか
配給:東宝東和 4月14日(金)より全国ロードショー

(C) Universal Pictures

 

執筆者=新田理恵(フリーライター&エディター)


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