『ハドソン川の奇跡』

トム・ハンクスは善人役が似合う。というか、善人役のイメージしかない。どんなピンチが訪れても、「トム・ハンクスがいれば救ってくれる!」と思えるような安心感がある。


最新主演映画『ハドソン川の奇跡』は、そんなハンクスのパブリック・イメージを裏切らない一本だ。2009年1月15日、ニューヨーク上空で155名を乗せた旅客機が全エンジン停止事故に見舞われ、機長チェスリー・サレンバーガーの決断でハドソン川に不時着した実話をクリント・イーストウッド監督が映画化。ハンクスは"サリー"ことサレンバーガー機長を演じている。

 

日本でも大きく報道されたのでご存じの方も多いであろうこの事故。前代未聞の事態にもかかわらず、「全員生還」という奇跡的なランディングを成し遂げたサリーは、一躍英雄として拍手喝采を浴びた。

 

ただ、それを単なる英雄譚で終わらせないのがイーストウッド。御年86歳、事実を詳細に観察するその目は、サリーのその後の精神的苦悩を克明に描き出す。本当に正しい選択肢だったのか? 成功したからよかったものの、自分は155人の命を乗せて、無謀な大バクチを打ってしまったのではないか?ーーそんな彼の不安に煽るように、事故調査委員会は、彼を容赦なく追及してくる。

 

この映画が上手いのは、必要以上に主人公に肩入れせず、あくまで事実を客観的に積み重ねていくところ。管制室とのやり取りなんて、管制官にフォーカスして撮られているため、一瞬、観ているこちらも、サリーの行動にいささかの疑問を抱いてしまったりする。事故発生から不時着を決断するまでわずか208秒の間に起きた事実を解き明かしていくというミニマムな設定なのに、スリリングなサスペンスに仕上げているイーストウッド監督の手腕はさすが! 事の顛末を知っているはずなのに、すっかり飲み込まれてしまう。しかも、最後にはきっちり、大変な人間ドラマを見終わった後の心地よい疲労と感動まで与えてくれる。上映時間96分、一切ムダなし!

 

『ハドソン川の奇跡』
原題:SULLY
監督・製作:クリント・イーストウッド
出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/hudson-kiseki/
9月24日(土)丸の内ピカデリー 新宿ピカデリーほか全国公開

(C)2016 Warner Bros. All Rights Reserved

 

執筆者=新田理恵(フリーライター&エディター)


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