『セッション』

2015年もまだ3ヶ月しか終わっていないが、現時点で今年一番の興奮を覚えた映画が4月17日公開の『セッション』だ。「血と汗の結晶」という言葉を、まさかビジュアル化して見せられるとは思わなかった。しかも音楽映画で。

偉大なドラマーになる夢を抱き、名門音楽大学に入学したニーマン(マイルズ・テラー)は、伝説の鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)率いるバンドのメンバーにスカウトされる。フレッチャーに認められれば、成功は約束されたも同然と舞い上がるニーマン。しかし、彼を待っていたのは、フレッチャーの狂気的とも言える過酷なレッスン。ニーマンは精神的にもギリギリまで追い詰められていく。

本作が普通の音楽映画と違うのは、鬼教師はもちろん、主人公もそろって"性格に難アリ"だということ。常人には容易に共感できない、師弟による狂気のセッションが繰り広げられる。本作でアカデミー賞助演男優賞に輝いたシモンズ演じるフレッチャーの、天才を輩出することにとりつかれたサディスティックな指導は強烈で、ラストで見せる鬼気迫る表情もちょっと夢に出そうなレベル。しかし何と言っても、主人公ニーマンが鬼教師以上に"難アリ"なのが筆者のツボ。周囲の人間の心を踏みにじっても自分は高みを目指そうとスティックを握り続け、文字通り血と汗を滴らせながらフレッチャーに食らいついていく様は爽快ですらある。

フレッチャーの「英語で最も危険な言葉はこの2語だ。"上出来だ(グッド・ジョブ)"」という台詞に思わず膝を叩いた。凡人でもいい。「ほどほどにね」と人をいたわる心も、弱者を見捨てない社会も尊い。だが、頑張りの基準を"そこそこ"に設定してしまうと天才は育たないし、社会全体が競争力を失うのではないか。「自分へのご褒美♡」がやたらと好きな若者が多い昨今、ニーマン&フレッチャーのような怪物コンビを見習えとは言わないが、今の日本に足りないスピリットがこの映画にはあるような気がする。

本作の監督・脚本を手がけたのは、これが長編映画監督デビューとなる弱冠28歳(撮影当時)のデイミアン・チャゼル。また凄い才能が現れた。

『セッション』
原題:WHIPLASH
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、
ポール・ライザー、オースティン・ストウェル、ネイト・ラング
配給:ギャガ 2014年/アメリカ/107分
4月17日(金)よりTOHOシネマズ新宿(オープニング作品)ほか
全国順次公開
公式HP http://session.gaga.ne.jp

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執筆者:新田理恵(フリーライター&エディター)




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