現役翻訳者のインタビュー:大塚美左恵さん

File no.019:大塚美左恵さん

ベルギーの大学(L'Université libre de Bruxelles)にて芸術哲学を学ぶ
現在は看護学校で英語の講師を務めながら、英語・フランス語の映像翻訳者として活躍中

質問1 子供の頃から言葉には興味があったのですか?

あったと思います。学校の授業に飽きてくると、こっそり辞書を読んでいましたから。一つの単語を引いたら、次はその説明文にある別の単語のページへ。次から次へと芋づる式にページをめくっていました。単語の意味や用法、さらに語源などを知ると、言葉の背後にある文化や歴史が垣間見られる気がして、つまらない授業時間も楽しく過ごした記憶があります。

質問2 最初に、映像翻訳者になる前はどんな仕事をしていたのですか?

大学院の学生でした。フランス、ベルギーに留学もしました。

質問3 映像翻訳者になろうとしたきっかけは?

子供の頃から洋画や海外ドラマをむさぼるように見ていましたし、語学の勉強も好きだったので、映像翻訳には以前から興味がありました。仕事として考えるようになった直接のきっかけは、大学での研究生活に行き詰まったから。好きな映像作品や言語に関わることを一生の仕事にしたいと思ったという、ポジティブな理由もあります。

質問4 仕事で身につけたことは、現在の映像翻訳に役立ってますか?

留学や原書講読で身につけた語学力や読解力は、それなりに役立っていると思います。でも、字幕のように制限された字数内で簡潔に翻訳するというのは、なかなか難しいです。

質問5 映像翻訳者になるためにどんなふうに勉強したんですか?

遠方に住みながら受講できる通信講座を選択しました。基礎コース、実践コースと通信講座で学んだ後、SST講座を受講するために何度か東京に足を運びました。

質問6 翻訳で一本立ちできるようになるまでどのくらいの時間がかかりましたか?

コンスタントにお仕事をいただけるようになったのは、2年目あたりからでしょうか。でも、いまだに一本立ちできたとは言いがたい状態ですが…。

質問7 初めて受けた仕事について教えてください?

たしかゲームの翻訳だったと思います。わたしはゲームをやらないので、最初は戸惑いましたが、やってみるとドラマのようで面白かったのを覚えています。

質問8 フリーランスで仕事をすることでの不安は?

常に不安だらけです。いつ仕事を干されるかと戦々恐々の毎日です。仕事が途切れた時に襲われる不安感にどう立ち向かうかが、目下の課題です。

質問9 現在、どんな仕事をしていますか?

特典映像やコメンタリーの翻訳が主です。たま~に、本編のお仕事をいただくこともあります。

質問10 翻訳環境を教えてください。 どんなPCを使いどんな字幕ソフトを使用し、辞書はどんなものを使っていますか?

PCはDellのデスクトップ(映像が見やすいように大きめのモニター)を使っています。OSはWindowsXP、字幕ソフトはSSTG1です。最近、新たにもう1台、ノートブックパソコン(Windows7)を導入したので、「これで外でも仕事ができる」と張り切っています。
使っている辞書は一般的なもので、英語は研究社の中辞典、フランス語はプチ・ロワイヤル。これに複数のWeb辞書を組み合わせて使っています。和英、英和、国語、類語辞典等が連動しているWeblioなどは結構、便利です。またスラング等はUrban Dictionaryなど、市民参加型(?)のサイトを参考にすることもあります。フランス語は仏和のWeb辞書があまり発達していないので、仏仏のWeb辞書を参照します。

質問11 仕事の時間を確保するために何か工夫をしていますか?

特別な工夫はしていませんが、いまだにスケジュール管理が下手で締め切り前は徹夜になることが多いので、睡眠時間は柔軟に調節するようにしています。

質問12 スキルを磨くために、日々気を付けていることは何ですか?

たくさんの字幕作品を見ます。どうしても好きなジャンルに偏りがちなので、できるだけ意識して、いろんなジャンルの作品を見るように心がけています。そして「これは!」と思った字幕はメモに残します。新聞、雑誌、本を読むときも、言葉や表現に気をつけてメモを取るようにしています。あとは自分の翻訳を見返して反省することでしょうか。

質問13 思い出に残る作品、または達成感を感じた作品は?

しばらく前になりますが、ソフトポルノ系の作品を翻訳させていただいたことがあります。これはいろんな意味で思い出に残りました。

質問14 逆に、思い出すと顔が青ざめる失敗なんてあります?誤訳とか?

あります、いろいろ…。数字を間違ったり、話している人物を間違ったり。単純な間違いであればあるほど見過ごしてしまうことがあり、演出の方に指摘されて、真っ青になります。

質問15 スランプに陥ったことがありますか? その脱出方法は?

「スランプに陥る」というのは一定の成績をあげた人間が言うセリフだと思うので、わたしごときが口走るのもおこがましいのですが、現在、スランプ真っ只中です。劇的に状況が改善する方法があればいいのですが、そんなものはなさそうです。地道に勉強するしかないのでしょうね、きっと。とりあえず早寝早起きを敢行して、やる気の充足を図っています。

質問16 趣味が多彩だと聞いています。漫画・小説・最近のごひいき作家は?

最近、『高慢と偏見とゾンビ』(セス・グレアム=スミス著、安原和見訳)を読んで、大笑いしました。ジェイン・オースティンの古典的名作『高慢と偏見』の大枠はそのままに、ゾンビという要素を足した"マッシュアップ小説"です。今回はどちらも邦訳版で読んだのですが、いずれ原著で2冊を比較しながら読みたいですね。ナタリー・ポートマンで映画化するとの話も聞いたので、そちらも楽しみです。

質問17 今後は、どんな作品を翻訳したいですか?

もちろん映画やドラマの本編を翻訳したいですが、いただける仕事は何でも興味を持って取り組みたいと思っています。

質問18 大塚さんから見て、字幕の世界はここが変だと思うことってありますか?

字幕に限ったことではありませんが、言葉の使用に必要以上の制約があると感じることはあります。でも、その制約の中で最適な表現を見つけることがプロの仕事なんだと自分に言い聞かせています。

質問19 最後に、大塚さんにとって、映像翻訳の魅力って何ですか?思う存分語ってください。

映像作品は字幕がなくても作品として完成しています。でも、映画館や家庭で上映され、視聴者の目に触れてはじめて作品としての一生を全うするのではないでしょうか。映像翻訳は作品と視聴者をつなぎ、作品がその使命を果たすのに貢献する重要な仕事だと思っています。あまり自己主張することなく、作品の一部になれるような翻訳を作っていきたいです。


現役翻訳者のインタビューのトップページへ