現役翻訳者のインタビュー:大山順子さん
![]() |
File no.013:大山順子さん 映像翻訳歴 : 3年 大学卒業後、大手金融会社の営業職につく。その後、目標を達成するため、勉強時間を確保できるよう残業の少ない外資系医療機器メーカーに転職。カスタマーサービスとして勤務するかたわら、夜は専門学校に通う貧乏生活を送る。結婚・転居のため退職。第1子出産後は身内の映画会社のアシスタントを務める(第3子出産まで)。現在は勉強したアロマセラピー・字幕関係の仕事を続けている。 |
質問1 映像翻訳者になる前はどんな仕事をしていたのですか?
営業・営業補助の仕事です。営業職は、自分でスケジュール管理をし、創造的に仕事ができるのが利点でしたが、相手の都合を考えずに、いわば、自分やノルマ達成・会社の業績アップのために話をすすめなければいけない部分があり、それがすごく苦痛でした(当時はまだ若かったので)。顧客の不利益になることは避けたかったので、あっさり引くようなところがあり、得意先では「ちょっと変わった営業の子」と思われていたようでした(笑)。「全然契約も取れていないだろう」と哀れに思うのか、不思議とお客様の方から契約をもちかけてくださることも少なくなかったのですが、やはり自分には向かないと思い、営業サポートに転職しました。外資系の医療機器メーカーでは、企業内部の組織・物流システムなどがわかり、違った面白さがありました。ですが、上層部はノルマ達成を声高に叫ぶのに、常に在庫不足で営業やサポートにしわ寄せがくるという矛盾が改善されず、会社自体は上司にかけあっても何も変わらない旧態依然の体質でした。環境を変えようと努力しても、なかなか結果につながらないのが不満で、今思えばその頃から「自分は会社勤めには向いていない」と感じていたのかもしれません。結婚・転居を機に転勤を打診されましたが、結局退職し、その後、アルバイトなどを経て現在に至ります。
質問2 海外生活での生活のご経験は?
学生時代、イギリスでホームステイを経験しました。詰め込み学習の弊害か(?)、それまで英語は得意でもニガテでもなく、「どうでもいい教科」だったのですが、イギリス滞在中に“英語って音の響きがステキなんだな~”と初めて気づき、心が動きました。
その後、20代半ばになって父親のオーストラリア赴任が決まった時、これは千載一遇のチャンスとばかりに会社を休職し、貯金をはたいて無理やり渡豪しました。現地では語学学校に通い、英検取得を目的としたコースをとって、ほどほどに勉強していました(笑)。滞在中に自分の将来を見つめ直し、「せっかくだから、英語と関わった仕事がしたい」と思うようになりました。
質問3 なぜ映像翻訳者になろうと思ったのですか?
オーストラリアから帰国直後は、これといった将来も見えず、会社も決まらず、お金もないのに生活費や家賃はかさみ、精神的・金銭的にかなりひっ迫していました。そんな苦しいさなか、ずっと仕事を持っていた母親にこう言われました。「女性は、時として人生の選択を迫られることがあると覚えておくこと。一般企業に勤めていても、結婚・出産・配偶者の転勤などで、せっかく得た職を失う可能性がある。既婚でも独身でも、環境に振り回されず、一生続けていける仕事を選びなさい。」その言葉をきっかけに自問自答しながら、語学のスペシャリストになりたい…そう思うようになりました。そこで、会社は勉強と両立しやすいように残業の少ないところを選び、通訳を目指して夜は学校に通うという生活を2年続けました。
結婚後退職し、転居してからも独学で勉強を続けていたのですが、当時は夫が多忙で家にいないことが多く、子育てしながら外に出て長時間働くのは難しいと実感していました。夫家族とは同居していましたが、それぞれが仕事を持っており、サポートの面で迷惑をかけたくないという思いもあり、自宅でできる仕事へ…と方向性を変えて考えるようになりました。そこで初めて、翻訳という仕事はどうだろう?と思い至ったわけです。
質問4 ではプロを目指すために、具体的にどのように勉強したのですか?
通訳学校在学中に一度、映像翻訳コースに通った経緯があったので、その流れで「映像翻訳」という分野に焦点をしぼりました。自分の学費を捻出するために、身内の会社の手伝いを始め、通えそうな学校を探しましたが、どこも平日の夜や土曜日などに集中して講座が設けられており、また学費も高かったので、なかなか前へ進めませんでした。そんな折、インターネットで通信講座を見つけ、受けてみることにしました。講座受講中に、ハコ割りについての疑問が出てきたので、平行してSST講座も受講しました。質問5 初めて受けた仕事について教えてください。
まず、SST講座終了後まもなく、スポッティングの仕事から声をかけていただきました。年配の方向けの番組に、日本語字幕をつける仕事だったと記憶しています。すぐ第3子妊娠が発覚しましたが、そのことに関係なくスポッティングの仕事を続けざまにいただいて、とてもうれしかったことを覚えています。制作会社で仕事をさせていただいたことで、現場の雰囲気や納品後の仕事の流れを何となく理解することもできました。その後、トライアルを受け、音楽ものの特典をいただきました。それから海外のゴシップニュースライターのトライアルを受け、第3子出産前後はこの仕事を中心にやらせていただいていました。出産後3ヵ月でSSTを購入し、スポッティング・翻訳の仕事を再開しました。
質問6 現在は、どんな仕事をしていますか?
今年は、ドラマシリーズが多かったです。その他に手がけたのは、特典映像やコメンタリー、リライト、音楽もの、本編などです。
仕事を始めた年は、妊娠・出産がからんでいたこともあり、いただいた仕事の数は17本でした。このインタビューを機会に数えてみると、産後明けの翌年からは、平均すると年間100本近く仕事をさせていただいた計算になり、自分でも驚いています。これは、週1~2本のペースで続けていたゴシップニュースのライターや、翻訳チェックの仕事なども含んだ数字です。字幕翻訳に限って言えば、だいたい年間で50~90本といったところでしょうか。ですが、決してコンスタントに仕事をいただいているわけではなく、電話が鳴らない日々が続くと、「何か大変な失敗をしたに違いない」と恐れおののき、不安にかられることも しょっちゅうあります。最初はその空白の期間の気分転換がうまくできず、落ち込んでばかりでしたが、最近はお休みをいただいたと思って、趣味や掃除にいそしんでいます。
質問7 映像ソフトやPCなど翻訳環境は日々変化していますが、使用しているPCや字幕ソフト、辞書はどんなものですか?
パソコンは夫経由で手に入れた中古デスクトップと、やはり夫のお古のノートパソコンを、SSTはG1ではなく旧式ソフトを使い続けています。辞書は英辞朗・リーダース・リーダースプラスなどを使用しています。ですが、辞書の言葉は限界があり、ピンとこないものも多いので、不安な箇所はネイティブに仕事として依頼し、チェックしてもらっています。また、ネットでスラングを英語で説明してくれているサイトを見つけ、活用しています。
基本は辞書やネット、図書館などで調べますが、専門職についている友人知人や関係機関に問い合わせて、日本語の流れがおかしくないか確認することもよくあります。私の場合、家族や友人知人の助けがなければ、この仕事を続けてこられなかったと言っても過言ではないと思います。
質問8 家事・子育て・仕事とお忙しくされている。仕事の時間を確保するために何か工夫をしていますか?
自分の睡眠時間を削ること。作業中は集中すること。細切れ時間を活用すること。段取りを第一に動くこと。これにつきるかと思います。
ワガママなのでしょうね。子どものPTA関係も、保護者との付き合いも、習い事の当番や試合の送迎・付き添いなども、自分の趣味も、仕事を理由に辞めたり断ったりしたくないのです。可能な限りは、ちゃんと義務を果たしたり、続けたりしたいと思っています。子どもの習い事の練習や勉強にも付き合いたい。家族が休日なら、一緒にいる時間を大事にしたい。子どもには、お惣菜や冷凍食品ではなく、手作りのものを食べさせたい。もちろん、それは理想であって、いつもすべてが完ぺきにできるわけではありません。忙しい時は家の中は乱雑になるし、仕事優先で家庭がおろそかになり、そういうふがいない自分に対してストレスがたまることもしょっちゅうです。ですが、優しい夫や義父母、同居家族に支えられ、同業の翻訳者さんたちに励まされて、何とか今までやってきました。
日中、丸々仕事に使えない日も多いので、必然的に夜中から明け方が主な仕事時間となります。遠方に出かけるときは、スクリプトとパソコンを持参して、移動時間などにやるようにしています。おかげで、車内でのスポッティングも酔わずにできるようになりました。集中しすぎると、何時間でもぶっ続けで作業を続けてしまって頭も体もおかしくなるので、我に返る時間も必要だと痛感しています。体が資本なので…。
質問9 では仕事の技術に関して、スキルを磨くために、日々気を付けていることは何ですか?
恥ずかしながら、人様に語れるような特別なことは何もありません。
ニュースをまめにチェックしたり、人の字幕を見て勉強したり、日常生活で気になったことはすぐ調べたり。そんなところでしょうか。子どもの前で話す言葉には、特に気をつけています。
質問10 思い出すと顔が青ざめる失敗なんてありますか?
あります。山ほど…。
スポッティングの仕事を始めて間もない頃、自分の作業ファイルと他の方のMDBファイルと結合したら、ハコがごっそりずれてしまっていたこと。
納期直前にメインのパソコンが突然動かなくなり、ノートに移していた不完全なデータで作業を全部やり直すはめになったこと。
ある宗教団体に余計な問い合わせをして、冷や汗が出たこともありました。
クライアント様にはご迷惑をかけることも多く、恥じ入るばかりです。パソコンのハード面にからきし弱いので、もっと勉強しなければと思う今日この頃です…。
質問11 今後は、どんな作品を翻訳したいですか?
まずは、苦手な分野を極力なくし、セリフはもちろん、歌詞や詩を美しくリズムよく訳す力をつけたいと思っています。
いつかは、ミュージカルや難解なテーマの作品を任せてもらえるようになりたいです。
質問12 映像翻訳の魅力って何ですか?
監督や作り手の息吹を伝えられることです。
いろいろな人の思いがつまった作品に微力ながら関われるなんて、本当に幸せなことだと感謝しています。


