現役翻訳者のインタビュー:横井和子さん

File no.011:横井和子さん

映像翻訳歴 :3年
食文化や芸術に精通。現在はフランス語の映像翻訳者として活躍中!

高校からフランス語を学び、大学ではフランス文学を専攻。ワイン専門商社勤務を経て映像翻訳の世界へ。現在はフリーランスの映像翻訳者として英語もフランス語もこなしています。

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質問1 英語だけでなくフランス語もこなす横井さん。子供のころはどんな子供だったのですか?

一人っ子のせいか、家で本ばかり読んでいる子供でした。『小公女』やローラ・インガルスのシリーズといった児童文学はもちろんですが、幼稚園から高校までカトリックの学校でシスターに囲まれて育った影響か、『ジャンヌ・ダルク』『小さき花のテレジア』など、カトリックの聖人の伝記も大好きでした。(大学だけプロテスタントでした)。毎日、お祈りをして聖歌を歌う環境で育ったことは、現在、欧米の作品を翻訳する上で大きな助けになっていると思います。


質問2 育った環境がカトリックやプロテスタント。欧米文化の理解には宗教の知識は大切ですか?またフランス語を選んだ理由をお聞かせください。

欧米文化の理解に宗教(特にキリスト教)の知識は不可欠だと思います。例えば、現在のフランスは政教分離を原則としていますが、カレンダーもカトリックの行事に関するお休みが多いですし、宗教が日常の一部として根付いています。日本とは宗教に対する意識がまったく違うと思いますし、例えば祈りの場に十字架と共にマリア様の像があれば、それはプロテスタントではなくカトリックの教会だということや、ロザリオの意味なども、日本にいると意外と知らない人が多いですよね。

フランス語を選んだ理由は、英語ができなかったからです! 小学校から英語の授業のある学校だったため周りのレベルが高く、中学3年生の時点ですっかり落ちこぼれてしまっていました。フランス語なら“ABC”からやり直せる! と思って選択しましたが、結果的に、英仏2つの言語を使ってお仕事ができるようになりましたし、人生最良の選択だったと思っています。(実は、フランス語の選択については、父から勘当を申し渡されそうになるくらい反対されたんですが、今は喜んでくれているようなので良かったです)。

質問3 大学在学中にフランスへ留学されたと聞いていますが、どのようなことを勉強したのですか?勉強の他に文化に触れるなどの実体験を、よろしければお話してください。

留学先で選択した授業は、フランス文学とフランス文学史がメインでした。日本で仏文科にいてもあまり読む機会のなさそうなヌーベルロマンの作品やサルトルも読まされましたし、面白かったですね。

勉強以外では、ご存知のとおりフランスは休みが多いので休みのたびに国内外に旅行に出かけていました。国境を接しながらもまったく異なる文化を持つ国々の雰囲気を肌で感じることができましたし、特にルルド詣でやヴェニスのカーニバルなど、日本からだとなかなか行かない場所に行ったのは、いい経験になりました。アルビのロートレック美術館やマントンのコクトー美術館など、その土地ゆかりの画家の美術館を訪ねたのも楽しかったです。“その土地で食べる名産物は美味しい!”ということを実感したのもこの頃でした。

質問4 大学卒業後は、ワインの専門会社にお勤めしたということですが、会社員時代の仕事で一番心に残っていることは?

ワイン好きなら誰もがあこがれる一流シャトーのワイン造りの現場を見学し、オーナーや責任者の方々から直接 お話を伺う機会を得たことが、やはり一番大きかったと思います。また、私がいた会社はレストランも経営していたんですが、当時のシェフが『料理の鉄人』に出るというので収録を見学に行ったのも面白かったです。(見事、勝利しました!)

質問5 そうした数年間を経て、ご結婚。その後、出版翻訳の勉強も続けていたと伺っています。出版翻訳を選んだ理由は何ですか?

翻訳という仕事を始めて意識したのは『風に乗ってきたメアリー・ポピンズ』を読んだ小学生の時で、それ以来、翻訳という仕事に憧れを持っていました。会社員時代には、ワインの商品説明の翻訳などをやらせていただいていましたが、やはり出版翻訳、できれば専門であるフランス文学の翻訳ができるようになりたいなぁと思っていました。(出版翻訳の勉強は5年ほど行っていたと思います。ハーレクインの養成講座に行ったりもしました)。

質問6 そこから映像翻訳に転向されたのですが、きっかけは何ですか?

出版翻訳の勉強を続けていましたが一向に芽が出ず、最後に、もうこれでダメだったら事務のバイトでもしようという覚悟で字幕翻訳スクールの門を叩きました。実は、私は映画を観るより原作を読むのが好きという本読みだったので向いていないジャンルだと思っていたんですが、実際にやってみたら、字数制限の中で最大限の努力をする字幕翻訳のあり方が まるでパズルのようで楽しく、はまってしまいました。字数に収めるために訳語をこね回したり、違う表現を考えてみたり、改行位置を変えるために単語の順番を変えたりという作業は面白いですし、映像や登場人物に合った言葉を選ぶのもエキサイティングです。

質問7 こうした経緯を経て映像翻訳に転向されたのですね。横井さんをこの仕事に駆り立てているものは何ですか?

とにかく“楽しい!”ということです。睡眠時間が減ったり食事の時間がとれないことがあっても、とにかく仕事が楽しいです。実際、昼食をとる時間が惜しくてバナナを片手に作業を続けることもありますが、ハコ書き、スポッティングから字数制限まで、字幕翻訳の何もかもが楽しい! という状態です。いい訳ができなくて落ち込むことも、調べ物に苦労することもしょっちゅうですが、楽しんでお仕事をさせていただいています。

質問8 楽しいということは、素晴らしいです。では次に翻訳についてお尋ねします。横井さんはドキュメンタリー、ドラマ、特典映像、本編と何でもこなしますが、個人の知識では補いきれないときには、どうしているのですか?

どういうわけだか友人や親戚の職業のバリエーションがすごくて、オペラ歌手、女優、バイオリニスト、ピアニスト、自動車関係、医者、法律家、ソムリエ、デザイナー、画家、インテリアデザイナーなどなど、とても広範囲に渡っているんです。ですから、もちろん自分でも専門書を調べたり関連図書を読んだりといった努力はしますが、それだけでは分からない専門的なことや“現場の声”、“自然な用語”は専門家に聞くようにしています。いつも質問攻めにして申し訳ないと思いますが、友人たちの存在は私の最大の財産です。

質問9 横井さんのお人柄に引かれて人が集まってくるのでは?かつて翻訳は始めたら止められないといった先輩がいたのですが、そのような心境なのでしょうか?

そうですね、翻訳は“始めたらやめられない”仕事だと思います。ただ、いろいろなことを聞ける友人が多いのは、私の人柄ではなく、私の質問攻めを許してくれる友人たちが親切なだけだと思います!

質問10 英語とフランス語両方されていますが、やはり両方こなせることは翻訳者としてメリットでしょうか?

フランス語作品だけれどスクリプトは英語、またはその逆、いう時に便利でした! それは稀な例だと思いますが、2ヶ国語ができた方が単純にお引き受けできる仕事の幅が広がることは確かですし、例えば英語作品でもフランス語圏が舞台になっている場合、やはりフランス語とフランス文化への理解があった方が有利なのではないかと思います。
一方、英語以外の言語(私の場合はフランス語)が第一外国語である場合、その言語で翻訳の講座を受けることも最初にその言語でお仕事を得ることも難しいことが多いので、他言語選択者にとって、英語がある程度できることは、メリットというより、むしろ必要条件だと思います。

質問11 フランス語と英語の字幕翻訳の違いなんてありますか?素人考えですが、英語よりもフランス語のほうが字幕に盛り込むのに内容が少ないのではと感じることがあるのです。

確かに、フランス語の方が1枚の字幕に含まれる原語の内容が多く、字幕の情報量が少なくなってしまう傾向があると思います。また、「OK」「Well…」「Let’s go」など、英語ならアウトにしても分かる部分も、フランス語で「D’accord」「Bon, alors…」「On y va」だったら訳さないと分からないなど、訳出する範囲にも違いがあります。
ただ、私はフランス語の方がなじみが深いので、英語の動詞が名詞と同じ形をしていたり、活用しなかったり、形容詞が性数一致しないのが分かりにくい!! と思うことの方が多いです。

質問12 思い出に残る作品、または達成感を感じた作品は?

お仕事を始めて間もない頃にいただいたミュージカル作品でクライアントさんからお褒めのお言葉を頂戴しまして、それがとても嬉しかったので印象に残っています。また、初めてのフランス映画、初めての連続ドラマ、初めて名前が出た作品など、“初めて”のものはどれも思い出深いです。他には、劇場で観たフランス映画がとても気に入って「この作品がDVDになったら特典をやりたいな~」と思っていたら本当にオファーをいただけた時も、とても嬉しかったです。

質問13 では、お好きなフランス映画のことをお聞かせください。どんな作品がお好きですか?好みの役者さんは?女優でも構いません。

リュック・ベッソンが大好きで、よくBGM代わりに『TAXi』シリーズのDVDを流しっぱなしにしているんですが、マルセイユ訛りに慣れてしまいそうでコワイです(笑)
作品や役者さんで好きなのは、『ニキータ』のジャンヌ・モロー(女としての目標です)、『アパートメント』のロマーヌ・ボランジェ(痛々しさがたまりません)、『王妃マルゴ』のイザベル・アジャーニ(美しい!!!!!)などでしょうか。(女優さんばかりですね… 男性はアジア人が好きです。麒麟の右側の人とか。俳優じゃありませんけど!)
最近の映画では『輝ける女たち』がとても気に入って、サントラのCDも買っちゃいました。MP3プレーヤーに入れて聴きまくっています。エマニュエル・ベアールも、そろそろ“女の子”役はつらい気がしますが、かわいいですよね!

質問14 長く仕事をしてきて、忘れられない出会いはありますか?

以前、勤めていたワインの会社の社長に、私は社会人としての全てを叩き込んでもらいました。英文ファックスの書き方、アポの取り方、分かりやすいファイリングといった事務的なことから、あきらめないこと、他人がしないことをする姿勢といった考え方の部分まで… いま、休みが少なくても体がつらくても、仕事が楽しいのが一番じゃないか! と思えるのも、その社長のお陰だと思います。退社した今でも大切な存在です。

質問15 尊敬する翻訳者や制作会社のスタッフはいますか?

お世話になっている制作会社の方は、皆さん言葉に対する感覚がするどく、かつ社会人としても尊敬できる方ばかりで、いつもすごいなーと思っています。

質問16 翻訳の仕事というと、常に締め切りに追われている印象をうけますが、気分転換にはどんなことをしていますか?

土いじりが好きなので、疲れてきたり集中力がなくなると花の様子を見たり、飼っている犬を転がして遊んだりして気分転換をしています。ガーデニングは、ベランダなので細々としたものですが、ラベンダーなどのハーブがメインなので世話をしていると落ち着きます。ルッコラやバジルなど食べるハーブもあるので、仕事が進まなくて買い物に行けなかった時にもサラダくらいにはなってくれて便利です! 絵を観るのも大好きで、モネが大好きな両親の影響で幼い頃は印象派、高校でカンデンスキーに出会ってからは抽象画、留学時代は宗教画と象徴主義、それから映画『カミーユ・クローデル』の影響でロダンと彫刻にも夢中になりました。自分でも、趣味で油絵を描いていたことがあります。 高校時代にはミュージカルに夢中になり、同じ演目を複数の劇団の上演で観たり、自分たちで上演するために映画版の字幕を書き写してシナリオを作り、歌い踊ったりしていました。今でもミュージカルは大好き! ですし、お仕事で歌の場面が出てくるとワクワクします。ドラマ『フレンズ』のフィービーの歌みたいなのも、面白そうです!(ピアノとバイオリンを習っていたので、いちおう楽譜も読めます)。

質問17 多趣味ですね。芸術関連の翻訳をしていただきたいですね。ご自分では、今後は、どんな作品を翻訳したいですか?

やはり、フランス語の作品をいただけたら嬉しいと思います。フランス語は英語に比べて字幕翻訳者も少ない代わりに日本で紹介される作品数も少ないと思うので、私がいただけるお仕事の比率が増えたら光栄です。また、フランス語の作品はもちろん、英語の作品だけれどフランスやフランスの文化を扱っているような場合にも、“これはフランス関係だから横井に”と思い出していただけるようになりたいです。

質問18 最後に、横井さんにとって、映像翻訳の魅力を思う存分語ってください。

字幕の最大の特徴であり最も難しい部分でもあるのが“字数制限”だと思うんですが、これにぴったり収まり、内容もきちんと伝えられる字幕を作れた時の爽快さは他では味わえないものです。また、外国語→日本語という“横のものを縦にする”面白さに、映像と言葉の組み合わせという面白さが加わり、さらにお仕事を通じて物知りになれたりもするという贅沢極まりないお仕事でもあります。もちろん、そのすべての裏側には難しさがありますが、それでも、字幕翻訳はとても面白い仕事だと思います。


英語が苦手でフランス語へ転向されたとはいえ、英語もフランス語も定評がある横井さん。
今後も、たくさんのフランス映画を翻訳して私たちを楽しませて頂きたいですね。


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