現役翻訳者のインタビュー:馬場亮子さん
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File no.010:馬場亮子さん 映像翻訳歴: 3年 SEを続けながらIT関連の翻訳を始める。マニュアルの翻訳などをしながら字幕を勉強し、現在はフリーランスとして字幕翻訳者として活躍中。 |
1.現在、どんな仕事をしていますか?
アメリカのテレビドラマシリーズ、劇場映画のマスコミ試写用の字幕翻訳です。海外ドラマは見るのが大好きなので、次の展開を知りたくて意外と(?)仕事がはかどったりします。思わず感情移入してしまい、字幕を書きながら画面に向かって一人で吹き出したり、文句を言ったり、泣いたり、かなり怪しい人になっています。たぶん映像翻訳者は皆さんそうだと思いますが。劇場翻訳のお仕事は、宣伝試写用とはいえ、現場での制作過程に初めて実際に参加させていただいて、1つの作品にいろんな方が関わっているのだということを改めて実感しています。また、自分の納品物が、その後どんな過程を経て1つの作品になっていくのかを目にするという、貴重な体験をさせていただいています。修正などもあり、冷や汗もたっぷり流しています…。
2.映像翻訳者になろうとしたきっかけをお話ししてくださいませんか?
マニュアル翻訳では日英翻訳をしていたのですが、SEをやめて翻訳で食べていこうと決めた時、英語から日本語への翻訳もできるようになりたいと考えました。そこで、昔からテレビっ子だったし、映画も好きだったので“好きこそものの上手なれ!”と信じて、映像翻訳を選びました。マニュアルとは違う分野の翻訳をして、片方の翻訳で煮詰まった時、うまく気分を変えられたらという気持ちもありました。
3. 初めて受けた仕事について教えてください
子供向けのアニメーションに、台本どおりに日本語の字幕を入れるというお仕事でした。翻訳という作業は全くありませんでしたが、字幕の入った映像を見ると、命を吹き込んでいるような気分になり、妙な使命感(?)に燃えました。初めての仕事がうれしくて、主題歌もすっかり覚え、仕事をしている間は頭の中でグルングルン回っているほどでした。
次にいただいたのは、クラシック映画の字幕のリライトでした。自分にできるのだろうかと不安になりましたが、「任せてもらえたということは、きっとできるに違いない!」と前向きにとらえて取り組みました。ところが、時間配分がよく分からずに、自分の見積りの何倍も時間がかかってしまい、最後はバタバタとアセって納品してしまいました。その結果、いただいたチェックバックで、やはり、だいぶ修正が必要だったということを知り、がっくりと肩を落としたのを覚えています。それでも、次のチャンスをくださった翻訳会社の方には、深く感謝しています。
4. 思い出にのこるような、スタッフさんとのやり取りや、出会いはありますか?
90分ほどの本編で、私がお昼に納めたものを、演出チェック後、夕方までにクライアントに納品するというお仕事がありました。問い合わせに備えて待機していたのですが、翻訳会社の演出の方と、電話とメールのやり取りで、とてもスムーズに作業が進んだのを覚えています。急ぎの仕事の場合は、レスポンスの速さがいかに大事かを実感しました。その方には、いつも翻訳内容だけでなく、仕事に関する疑問点、不安点などの相談にも乗っていただいています。時には厳しく、時には優しく励ましてくださる心強い味方(だと勝手に思っています)です。
また、シリーズもののドラマを一緒にやった翻訳者さんとは、その間に受講した講座で一緒だったこともあり、ドラマの翻訳中は疑問点を相談し合ったりしていました。その仕事が終わった今でも、情報を交換したり、お互いに励まし合ったりするとてもいい仲間になっています。
私自身は、口数が多いほうではないのですが、以前のSEの仕事でも、客先に出かけて打ち合わせをしたり、作業をするのは好きでした。現場の人と直接話をして、作業の流れを知るのが好きだったからです。現在携わっている翻訳で、制作現場の方々と会う機会があり、その時の気持ちが少しよみがえりました。今はほとんど自宅での作業ですが、そうして人と直接関わり合いながら、仕事をする機会が少しでも増えたらいいなと思います。
5. 現場で仕事のやり取りを通して、いろいろと知識や人脈を作っていくのですね。では、馬場さんが映像翻訳を始めたスタート地点にさかのぼってお聞きします。翻訳学校では具体的にどんなことを学ぶのですか?
字幕の講座では、字幕のルールという制約の中で、状況・人物背景を考えながら、映像に合う日本語を書くということを学びました。「映画を読む」という言葉は、とても印象に残っています。また、吹替えの講座では、字幕との違いを感覚的に知ることができました。授業中は自分の翻訳をクラスメイトに読んでもらうことで、文章の読みやすさを客観的に見ることもできました。両方の講座で、読む日本語と、聞く日本語の違いを少しでも知ることができたと思います。
6. 学校の勉強で一番仕事に役立ったことは何ですか?
答えにならないかもしれませんが、「一番役に立ったのはこれだ」と文字にして伝えられない、感覚的なことを学べたことだと思います。先生からの直しや、クラスメイトの翻訳から学んだことはたくさんあります。先生の指摘で今でも頭に置いているのは「流れはいいけど流しすぎ。原語をもう少し活かしたほうがいい」という言葉です。
7. 学校卒業後どのくらいの期間で仕事をいただけるようになったのですか?
講座修了後すぐにトライアルを受け、合格後に最初のお仕事をいただきました。
8. トライアルって難しいですか?
授業での課題に比べて、特に難しいとは感じませんでした。ただ、自分の翻訳スピードを把握できていなかったので、内容の難易度より、決められた期限内に字幕を完成させるという点が難しかったように記憶しています。
9. スキルを磨くために、日々気を付けていることは?
お前は何様だと怒られるかもしれませんが、実は、日々気をつけようと、あえて意識していることがありません。 “仕事のため”と考えた時点で頭が拒否反応を起こしてしまう、あまのじゃくタイプなので。好奇心だけは失わないように、その時その時で興味のあることを、ただ楽しんでいます。ニュース、新聞は見るようにしていますが、これは時代に取り残されないため(笑)。その点で、芸能ニュースチェックも、私にとっては結構大事だったりします。
仕事をするうえで気をつけているのは、仕事のやり方ですね。特に、効率化と作業にかかる時間を意識することです。作業の効率化がはかれれば、翻訳自体にかける物理的な時間が増えるし、時間の見積もりがうまくできれば、先が見えるので精神的な余裕ができる。それが、最終的に品質の向上につながればいいなと考えています。
10. 学生時代はあまり英語が得意ではなく、社会人になってからの勉強が非常に役立ったそうですが、ぜひ、これから英語をマスターしようとする方に経験をお話していただけませんか?
高校時代は、英語の授業が全然理解ができず、常に赤点スレスレ。受験もさんざんな結果でした。学校の英語は、はっきり言って大嫌いでした。単語1つを覚えるのも苦痛でした。いわゆる“受験英語”が嫌いだったのだと思います。
それでも、外国に対する興味はあり、大学卒業前にニュージーランドを旅行しました。旅行中、泊まった小さなホテルのフロントの後ろで、若い従業員が、楽しそうにひらがなの練習をしているのを見ました。日帰りツアーで知り合った韓国の双子ちゃん大学生から、日本人は何年も英語を勉強しているのに、どうして喋れないのかと聞かれました。それから、海外青年協力隊としてトンガに行き、現地で言葉を覚えながら活動をしているという日本人と知り合いました。仕事を辞めてニュージーランドに来て、度胸1つでコミュニケーションを取り、皿洗いなどの仕事をしながら旅をしている、日本人の若い夫婦にも会いました。
異国での人との出会いを通じて、なんだか生きている言葉を感じたような気がして、もう一度、英語を勉強したくなり、社会人になってから英会話学校に通い始めたのです。まずは「中学の文法からやり直しましょう」コースで出発。そこで褒めて育ててもらい(笑)、数年後、アメリカの語学学校に行きました。この時の文法の先生の説明がとても論理的で、面白いくらいに頭にすんなり入り、目からウロコの毎日で、覚えるのが楽しくて仕方ありませんでした。
社会人になってからの英語学習が続いたのは、自分から勉強をしたいと強く思ったことと、好きだった映画や、海外ドラマ、洋楽に結びつき、純粋に楽しみながら学習できたからだと思います。そして、今は英語に関わる仕事をしているというわけです。
11. 活用している資料、辞書、WEBサイトは?
活用している資料は図書館です。図書館から本を借りるのは中学以来のことでしたが、久しぶりに利用してみて「資料の宝庫だ!」と感激しました。
辞書でよく使うのは、ぎょうせいの『早引き類語連想辞典』です。類語辞典ではなく、類語“連想”辞典というネーミングが気に入っています。“喉まで出かかっているけど思い出せないあの言葉”を思い出すのに役立っています。英和・和英など他の辞書はPC版で持っているのですが、これだけは紙ベースで持っていたい辞書です。
ネットでの情報探しは、Googleの検索機能を駆使してというのが一番多いです。欲しい情報に少しでも近づくことができるように検索ガイドの検索方法を参照し、駆使しています。
12. 普段はどんなペースでお仕事をされているのですか?大体1つの作品で、どのくらいの 日数がいただけるのでしょうか?
50分の映像に5~6日くらいの猶予で依頼をいただきますが、“できるだけ前倒し”を心がけています。
1日の中では、朝型の体勢をとっています。深夜より、早朝のシーンとした静けさの中のほうが、私には頭がよく働く時間になるので、朝の4~5時くらいから始めます。
1カ月の中での仕事のペースはまだまだ変動が激しく、心も財布も寂し~くなる月も多々(ひゅるる~)。少しでもこの状況から脱却すべく、今は1つ1つの仕事を確実に、そして少しでも早くこなそうと努める日々です。
13. オフのときはどんな過ごし方をされているのですか?
自分の計画が前もってある時以外は、オフは予告もなしにやってきます(笑)。そういう時は、たまった録画(ドラマ・映画・バラエティ)を見たりして、これでもかというくらい思いっきりゴロゴロします。
舞台を観にいくのも好きです。なぜか、出演者が多いものは苦手で、多くても5人くらいまでの舞台しか観ないのですが。観劇後の、友人とのしっぽり(?)飲み会が、またお楽しみです。
そして、忘れてならないのはミーハー活動(笑)。好きなタレントの出ているテレビ番組の観覧に行ったり、ロケ地巡りをしたり。癒しの時間です。
好きな俳優ですか…?それが日々変わるもので…。翻訳中も、登場人物に可愛い男の子、かっこいい男性がいると、PCの壁紙が変わります。士気を高めるためです(品質の向上につながります、ハイ)。でも、名前を挙げるとすると、マット・デイモン、ジョニー・デップ、ジョン・キューザック、トニー・レオン…。なんだか一貫性なしです…。
14. 今後、どんな作品の翻訳をやりたいですか?
抽象的ですが、クスッと笑えるような(ガハガハではありません)スパイスの効いた作品、温かい作品の翻訳をやりたいです。ボソッと皮肉を言う登場人物がいたりしたら、最高ですね。映画では、ミニシアター系の作品が好きです。あとは、アメリカのドラマシリーズ1つを全話やってみたいです。かっこいい男子が出ていたら言うことありません(これは、もういいですか?)。
それから、昔からミステリー小説が好きだったので、いつか犯罪ものをやってみたいです。小学生の時、シャーロック・ホームズに目覚め、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、ディクスン・カー、ヴァン・ダイン、クロフツetc.と夢中で読みました。高校時代はペリー・メイスンに目がハートになり(テレビシリーズを見て「違うっ、私のペリーじゃないっ」と叫びました)、87分署シリーズで警察小説が好きになって男臭い世界にあこがれ、と結構ハマってました。翻訳をするとなると、専門用語が満載で、きっと苦労するんですよね…。見るとやるとでは大違い。でも、いつの日か…。「好きこそものの上手なれ」精神で。そういえば先日、字幕を担当した特典の映画が、昔読んだ警察小説の1つだった時はうれしかったです。
他に今後の抱負といいますと、今は映像の仕事を取り巻く環境も、日々変化してきているので、そういったコンテンツの変化、視聴者・観客のニーズの変化、技術の変化などに対応していけるような、柔軟な翻訳者でありたいと思っています。いつまでも頭がスポンジのように吸収できればいいと願ってます。
15. では最後に馬場さんにとって、映像翻訳の魅力って何ですか?
このスターや監督が何を喋っているのか知りたいとか、この人の出ている作品、この人の作った作品を見たいけれど言葉が分からないと思っている方々がいて、字幕や吹替えを通して、映像を楽しんでもらえるのはうれしいことです。誰かがどこかで、自分が翻訳を担当した映像を見て、にっこりにんまり幸せな気分になってくれていたら最高です。
私自身は、好きなことを仕事にできているという贅沢を、ただただ味わわせてもらっています。
ありがとうございました。実務翻訳と映像翻訳を同時にこなしている馬場さんです。
プロの部分と、自分の好奇心を上手にコントロールしておられます。学生時代英語が苦手だったなんて、信じられませんね。


