現役翻訳者のインタビュー:馬場綾子さん
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File no.008:馬場綾子さん 映像翻訳歴 : 6カ月 大学時代に中国語を専攻し、広東語圏と普通語圏両方の生活を体験。流通業界を5年経験後、中国と関わる仕事がしたいと思い転職。現在は派遣社員として中国資本の商社に勤めながら、中国ドラマなどのチェックを中心に活躍中。
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質問1 まず、現在手がけている映像翻訳の内容を教えてください。映像翻訳のチェッカーとは具体的にどんな仕事をするのですか?
中国の歴史ドラマのチェッカーをさせて頂いています。翻訳者の字幕案と原文、映像を照らし合わせながら、誤訳の有無、言語・字幕ルール、歴史的背景、固有名詞などをチェックし、より良い字幕にする仕事です。
質問2 時代物ですね。中国は4千年の歴史ですから、史実の確認など、現代ものより手間がかかると想像します。チェッカーとして、どんな点に苦労しますか?
歴史ものは史実に合った字幕にする必要があります。例えば肩書きなどその人物の役割と名称が合っているか、また実在の人物がいる場合が多いので、どんな人か歴史資料を探して字幕に反映しています。主従関係があれば話し方も違うので、人物設定は特に気を使います。場所や食べ物名なども実際どんなものか、写真や説明の資料を探します。正確な資料を探すのに苦労しますが、当時の様子も分かってくるので楽しい面もあります。成語や特殊な言い回しも多いのですので、中国語の意味を複数の辞書やネットで確認した上で、適切な日本語を更に辞書で再確認する場合もあります。
質問3 チェッカーとは、誤字・脱字・誤訳・日本語の流れ・歴史的背景など、作品を深く読み込んで、翻訳者が見落としてしまうような細かなことや、翻訳者がひとりよがりにならないように、最善を尽くす仕事なのですね。
以前、映像翻訳講座で10人いれば10通りの訳が出てくると教わりました。確かに原文の細かいニュアンスのとらえ方は人それぞれだと思います。また、翻訳者様も短い納期の中どうしても見落としてしまう場合もあると思います。チェッカーが一つ一つ再確認することで視聴者がより分かりやすい字幕になるのだと思って丁寧に仕事をするよう心がけています。
質問4 プロの原稿をじかに見ることができることは、新人翻訳者としては大変なメリットだと思います。これは仕事冥利に尽きるという利点は何ですか?
やはり本物を見て学ぶことですね。
ハコの切り方、訳し方など大変勉強させて頂いています。特にセリフが長い時は、うまくまとめないと何が言いたいのか分からなくなってしまうので、すっきりした訳を見ると「うまいなあ」と思わずうなっています。武将が戦いの決意を述べるセリフで「天下は最後のある日 我が国に帰する」という原文を「天下がひれ伏すその日まで」と訳されていて、文字数もぴったりだし映像の雰囲気ともマッチしていて素晴らしいと思いました。こういう字幕に日々触れられ大変ありがたいです。
質問5 ありがとうございます。大学時代に中国語を専攻し、海外生活も長かったと聞いています。馬場さんが、中国語を選んだ理由は何ですか?
中国はお隣の国だし、少し興味があったことから中国語を専攻しました。当時は特に目標などはありませんでした。在学中に香港と吉林省に留学したのですが、現地で触れ合った文化や出会った人々によって「はまってしまった」という感じです。中国はいろんな顔を持っていると思います。ものすごい勢いで発展していながら、昔ながらの生活を続ける人達もいたり。びっくりすることも多いですが、人も街も日本にはないパワーがあります。もっと理解していきたいです。
質問6 中国語は北京語や広東語などいろいろありますね。地域によって、国民性も違うのですか?
大きな国なので各地域それぞれの文化があります。香港は元イギリス領で大学生の教科書は英語。友達の中には働きながら大学院に行ったり、仕事で海外に行ったりとても国際的で勉強家が多い印象です。普通語(北京語)圏では少数民族の地域もありますし、留学中に行ったロシアとの国境の町では、町の人達が流暢なロシア語で商売をしていました。各地域それぞれに魅力があります。
質問7 会社員としての生活も長く、また現在も派遣の仕事をしておられますね。会社員とチェッカーの仕事の両立でよい点、また、大変な点などをお聞かせください。
良い点は社会の様子が分かることでしょうか。会社員ですと人に出会う機会も多いので、いろんな分野の情報に触れることができます。今は中国企業にいますので、中国の人と協力して働く楽しみもあります。翻訳は調べることも大切ですが、自分が体験したことは生きた訳につながると思うので、翻訳以外の世界を持つことはとても意味があると思います。
大変な点は時間がない!これに尽きます。平日にも納期はありますから仕事から帰って家事を済ませて翻訳チェックをしたらすぐ朝になってしまいます。納めた後も次の資料の事前チェックがありますし。私だけ1日48時間にしてほしいといつも思います。
質問8 では具体的に、どんなふうに勉強したのですか? 独学?製作現場?学校? また現場ではどのように指導されるのですか?
映像翻訳の勉強は翻訳会社が経営するスクールを選び、映像翻訳講座入門と中国語SST講座を受講しました。入門の授業は教材が英語でしたので、すごく不安でしたが、映像を見て字幕を実際に考えながら、翻訳の基本的なルールを学んでいくので、中国語専門の私でも分かり易かったです。中国語SST講座ではSSTの操作と字幕表記のポイントを中国のドラマを教材にマンツーマンで教わりました。授業と別の日に自主練習の時間もあり、分からない時は細かい点でも何度も教えて頂けました。字幕を訳すのは、自分で中国語の映画をハコ書きからやってみて、同じ映画の日本語版と照らし合わせたりして勉強しています。
質問9 中国語の語学学校の中には映像翻訳の学校はあるのですか?
中国語の語学学校は大小さまざまありますが、ほとんど会話かビジネス通訳・翻訳学校で、中国語の映像翻訳講座は数校しかありませんでした。映像翻訳はやはり英語の講座が中心のようです。韓国語同様、これから増えてほしいと期待しています。
質問10 万博を控えて、翻訳者にとっては、今後が大いに期待される分野ですね。中国では、すでに盛り上がりを見せていますか?
万博を含め中国は常に話題が尽きないですが、やはり今は来年のオリンピックが注目されていると思います。北京の街は大きく様変わりしていますし、マナー向上もオリンピックの課題の一つで、タクシー運転手のみだしなみまで取り締まるほど力が入っています。オリンピック後の中国がどうなっていくかも注目されているので目が離せないです。
質問11 映像翻訳以外に、エンターテインメント記事や、ニュースなどにも興味がおありですか?
アジアを伝える仕事がしたくて映像翻訳を始めたので、ニュースやドキュメンタリーなどあらゆる分野に携わりたいです。以前日本で頑張る中国人のドキュメンタリーがありましたが、その懸命な姿に大変感動しました。なかなか知ることが出来ない世界を多くの人に伝えられたらうれしいです。
質問12 ありがとうございました。馬場さんは、山本周五郎、横山秀夫、浅田次郎、奥田英朗などの日本文学がお好きだと聞いています。 オススメ本などを教えてください。読書は具体的に翻訳に役立ちますか?
横山秀夫の本は警察ものが多いのですが、人物描写が絶妙です。何度読んでも作品の世界に引き込まれます。「第三の時効」は特におすすめです。奥田英朗の「空中ブランコ」シリーズはおかしな精神科医のストーリーですが、笑って笑って最後にほろりとさせられます。本はいろんな世界を知ることができますし、文章力を高めるにも役立つと思います。半身浴をしながら読むと体にもいいです。
質問13 普段から日本語の語彙力や表現力を高めるために、何かしていますか?
読書ももちろんですが、やはり映画やドラマなどたくさんの作品を観ることが一番だと思います。字幕を意識すると勉強になります。最近は良い作品はまた観れるようにタイトルと感想をメモするようにしています。
質問14 オフのときはどんなことをしてますか?
まずは家事です。掃除、買出し、雑用を一気に片付けます。それから友達に会ったり、映画を見たり、最近は図書館にも良く行きます。格闘技が好きなのでK-1やHERO’Sなどは欠かさず観ています。イチオシは所英男選手です。 運動はなかなか時間がないですが、ジムで筋トレしたり、習っていた太極拳で時々リフレッシュしたりしています。質問15 馬場さんご自身の、今後のビジョンを教えてください。
今年は、映画、ドラマ、ドキュメンタリーどれでも1作品以上は、翻訳したいです。その後は多くの作品に関わって、多くの方にアジア作品を見て頂けるようになりたいです。広東語もマスターして、香港映画も手がけたいと思っています。
質問16 では最後に馬場さんにとって、映像翻訳の魅力って何ですか?
私自身が映画やテレビに字幕があることで、いろいろな国の映像に触れることができ、感動を味わったりしています。同じように自分が字幕を手がけることで、多くの人がアジアの作品や映像を理解することができ、身近に感じられると思うととてもやりがいがあります。逆に自分が手を抜いたり、意を曲げてしまったりすると、その作品を台無しにしてしまうので責任も重大です。あくまでも裏方ですし、楽な仕事ではないですが、作品の意味を正しく伝えられる翻訳を目指していきたいです。
ありがとうございました。チェッカーの仕事をしながら、着実にプロへの道を歩んでいる馬場さん。仕事に対する細やかで真摯な姿勢に脱帽です。中国語の翻訳者はこれから需要が増えると予測されている今、ぜひキャリアを積んで、私たちを楽しませてくれる翻訳者になっていただきたいと思います。


