現役翻訳者のインタビュー:佐藤直美さん
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File no.007:佐藤直美さん 映像翻訳歴 :4年 大学卒業後一般企業に勤務。退職後日本およびフランスの専門学校でフランス料理と菓子を学び、料理学校で非常勤講師を務める。その後夫の転勤でロンドンに在住。帰国後翻訳の道に進む。現在は子育てと仕事を両立し映像翻訳者として活躍中。 |
質問1 映像翻訳者になる前はどんな仕事をしていたのですか? 結婚を機に本格的にフランス料理を学んだそうですが、そのいきさつを教えてください
大学卒業後は一般企業に勤務しました。当時は特にやりたいことがなく、何となく過ごす日々を送っていました。「このままじゃいけない」とは日々考えていましたが、それなりに楽しい日々を送っていました。
その後、結婚したことをきっかけに料理の楽しさに目覚め、本格的に勉強しようと思いました。20代の終わりですね。思い切って退職して、フランス料理と菓子の勉強をしました。東京でル・コルドンブルーを修了し、料理学校で講師の仕事も始めました。パリの学校(リッツ・エスコフィエ料理学校)にも短期留学しました。
質問2 フランスへ短期留学されていたということは、英語のほかにフランス語もご堪能でなのでは? 専門の英語はどのように学んでいたのですか? 海外生活も長かったそうですが、語学の習得法について聞かせてくれませんか?
フランス語は大学時代に習っていたので、もともと旅行できる程度のフランス語はできました。授業で使うフランス語は専門用語が多いので、意外と苦労しませんでした。食材の名前や調理に関する動詞などは、日本で専門学校に通っていた時に自然と身についていたんです。専門分野に精通していると、その分野に関する外国語は特別に勉強をしなくてもできるようになるんです。
英語は昔から好きでしたが、あまり使う機会はありませんでした。主人の転勤でロンドンに住むことになり、せっかくのチャンスだと思い、ここで英語をやり直そうと決意しました。まずやったことは大学受験用のテキストを使った文法のおさらいです。そして現地の英語学校に行き、アダルトスクールの授業を受けました。公立のスクールなので安く、多様な講座がそろっていましたね。イギリスはアロマテラピーやホメオパシーなどの代替医療が注目されていたので、それらの講座を受講しました。専門用語が多いので苦労しましたが、興味深い内容でした。
当時は1人目の子がまだ赤ちゃんだったので、あまり外出ができず、かえって家の中での英語学習に集中できたのです。
質問3 では、料理と翻訳に共通することはありますか?料理と映像翻訳が、かけ離れているように思えますが、この二つの共通点など佐藤さんの考えや思いなど聞かせてください
両方とも素材があって、それをどう調理=翻訳するかでしょうか?
ただ料理の場合、後まで形に残りませんので、写真くらいでしか作品としては残せません。翻訳は自分の作品として残せることがうれしいですね。
ロンドンに住んでいた時は料理の仕事はお休みしていました。帰国後も再び料理方面の仕事を続けたかったのですが、料理関係の仕事は外での拘束時間が長いので、家庭があるとなかなか難しく、帰国後は何か別の仕事をやりたいと思いながら過ごしていました。
その後、帰国が決まり、偶然雑誌で映像翻訳の専門学校を見つけました。英語を生かせるし、ロンドンでよく見ていたような(BBCのドキュメンタリーが大好きでした)ドキュメンタリーや情報番組の翻訳を仕事にできたらいいなと思い、映像翻訳学校に入学を決意しました。
質問4 そうした経緯があって映像翻訳を選ばれたのですね。映像翻訳者に転向するということでご家族や周囲の人の反応はいかがでしたか?
これといった反応はなかったです。お互いに好きなことをやっているマイペースな夫婦なので。
質問5 ではプロを目指すために、具体的にどのように勉強したのですか?
先に挙げた映像翻訳の学校に1年間通学しました。この学校では、字幕だけでなく吹き替えやボイスオーバーも学びました。課題が多かったので必死にこなすうちに力がついていったと思います。またクラスメートの訳を見るのが非常に勉強になりましたね。今も勉強会をやりたいのですが、なかなか時間がなくて… 私の仕事は字幕の仕事がメインですが、時々ボイスオーバーの素材、またはボイスオーバーと字幕がミックスされた素材を手がけることもあるので、この学校で映像翻訳全般について学べたことは有益でした。
仕事を始めてからは、不慣れなジャンルの素材を受注した場合、関連した本や番組を見て、そのジャンルでよく使われる言葉や言い回しをノートに書いて日本語の単語帳を作っています。
単語帳は後々役に立つので、大切な私だけのオリジナル資料になりますね。
質問6 翻訳で一本立ちできるようになるまでどのくらいの時間がかかりましたか?
翻訳学校を修了してすぐに映像翻訳者として活動を始めましたが、やはり最初の1年はあまり仕事がありませんでした。その期間を利用してトライアルを受け、いくつか翻訳会社に登録しました。軌道に乗ってきたのは2年目からですね。この仕事は短期間に集中して長時間作業することが求められるので、ほかに仕事を持ちながら並行してやるのはなかなか難しいと思います。
質問7 初めて受けた仕事について教えてください。ドキドキしましたか?
映像翻訳学校からの紹介で、BSの報道系ドキュメンタリーの字幕を作りました。名前は出ませんでした。
当時はビデオテープの素材を宅配便で受け取り、SSTも使わずストップウォッチでハコの長さを計っていました。今考えると大変でしたね。素材の長さは20分程度でしたが、絶え間なくナレーションとインタビューが入る素材だったので字幕の数は相当なものでした。ほとんど食事もとらずに夢中で作業しました。
オンエアされた時は緊張しましたね。少し恥ずかしいような何とも言えない気持ちです。でも自分の作った字幕が世に出たうれしさは言い表せないほどでした。
質問8 現在は、どんな仕事をしていますか?
DVDの特典映像やコメンタリー、情報番組、昔の映画の本編などです。
最近は公開されてからすぐにDVDになる作品も多いので、新しい映画に触れられるのは楽しいですね。一方で昔の映画に新しく特典映像をつけてDVD発売されるケースもあります。今だから言える制作当時の秘話…のような内容が多くて、とても興味深いです。
質問9 映像ソフトやPCなど翻訳環境は日々変化していますが、使用しているPCや字幕ソフト、辞書はどんなものですか?
パソコンはメインでデスクトップ(富士通FMV DESKPOWER)を使い、サブとしてノートパソコンを持っています。普段は仕事部屋にこもって作業していますが、休日は家族がいてなかなか家で落ち着いて仕事ができないので、時にはノートパソコンを持って図書館で作業します。
SSTは映像翻訳を始めて2年目に導入しました。最初は翻訳会社へ行ってスポッティングを取っていたのですが、時間の節約のためと、よりよい字幕作りのために思い切って購入しました。やはり映像にのせて字幕を見られる便利さは捨てがたく、今では手放せませんね。
英和辞書はリーダーズとランダムハウス、スラング辞典、英英辞典はCOUBUILDを使っています。意外と使うのが日本語の辞典です。特に類語辞典は必需品ですね。字数制限で困った時に助けてくれます。
慣用句などは間違えやすい表現が多いので、怪しいと思ったらすぐにチェックします。日本語を間違えることが一番恥ずかしいですからね。
最近、百科事典や用語辞典を閲覧できる有料サイトの会員になりました。キーワードを入力するとすべての事典類をまとめて検索できる優れモノです。調べものがかなり楽になりました。
質問10 小さなお子さんもいらっしゃって、家事・子育て・仕事とお忙しくされている。 仕事の時間を確保するために何か工夫をしていますか?
下の子はまだ小さいので保育園に預けています。在宅がメインとはいえ、かなりの集中力が必要とされる仕事ですから。子供が保育園に行っている間が勝負なので、集中的に効率よく仕事をこなす工夫をしています。
家で仕事をしているというと、どうしても外野から専業主婦の延長のように思われたり、「家にいるのに育児や家事ができない自分」にイライラしたりするのですが、そこは在宅でも仕事は仕事と割り切ることが必要だと思います。ワーキングマザーが意見を交換している掲示板やブログは、こまめにチェックしています。他の方がどうやって時間をやりくりしているかなど、参考になる部分は多いですし、皆が頑張っている様子を知ることでモチベーションも上がりますね。
家事については、買い物は生協の配達を頼み、食器洗い機を導入。徹底的に合理化を図っています。忙しい時は多少家の中が荒れますが、そこは割り切るしかありません。
質問11 気分転換にはどんなことをしていますか?よく翻訳者さんは運動不足だと聞きますが、ご自身はどのように解消していますか?
通勤もありませんし、基本的に座業なので意識して体を動かさないとすぐに運動不足になりますよね。スポーツは得意ではないのですが、体は柔らかいのでヨガだけは長続きしています。今、ヨガはブームでスタジオも増えました。好きな時間に予約なしで行けるスタジオに暇を見つけて行っています。道具も不要で、心身ともにリラックスできるのでおすすめのスポーツですよ。DVDもたくさん発売されていますしね。
また私の住んでいる場所は自転車で動くと便利なので、極力電車を使わず、行ける範囲でサイクリングも兼ねて自転車で出かけるようにしています。
質問12 では仕事の技術に関して、スキルを磨くために、日々気を付けていることは何ですか?
何事にも興味を持つことです。時には図書館に行って、まるで興味のない、普段は手にとらないような本を読んでみることもあります。映像翻訳はさまざまなジャンルを扱いますから、常にアンテナを張っておくほうがいいと思います。
またどんなに忙しくても新聞だけは毎日読みます。今の世の中のあらゆる事象が凝縮されているメディアですからね。
質問13 思い出に残る作品、または達成感を感じた作品は?
中国語のドラマシリーズです。全部で30話もありました。日本のドラマですと10話程度ですよね。長いシリーズは脇役もしっかり描かれ、いくつかの盛り上がりがあるので、ストーリーに深みがあると思います。中国語なので日本語に全訳する方についていただき、この方と連絡を取り合いながら字幕を作りました。普段はまるっきり1人で作業するので、他の方と協力して1つのものを作り上げるのが新鮮で楽しかったですね。
質問14 逆に、思い出すと顔が青ざめる失敗なんてありますか?
データを消してしまったことがあります。前日まで作業した分のデータは保存してあったので、なんとか取り戻せましたが、その日1日の作業はパーです!1日ムダな労働をしたのも同然です。データはお金と同じだなと改めて思いました。質問15 スランプに陥ったことがありますか?その脱出方法は?
自分に自信が持てなくなることが時々あります。そんな時にやるのは、勉強です。1)英語の勉強。特に英文法のおさらいをすると、それをやったことで自分に自信が持てる気がするんです。2)小説を読む。普段はノンフィクション派ですが、せりふが多い小説は、日本語の勉強になります。特に自分とかけ離れた世界の小説が参考になります。例えばハードボイルド系や、高校生が主人公の学園ものなどを読んでみると言葉遣いなどの参考になります。3)人の字幕を見る。映画を見て「なるほど、うまい!」と思った字幕はメモしておくと勉強になります。
私の場合、スランプの時は気分転換をするよりも、勉強することで「これだけやったんだから」と自分を納得させるほうが効果的なのです。
質問16 今後は、どんな作品を翻訳したいですか?
何でも挑戦したいのですが、また長いドラマシリーズを手がけたいですね。次の展開が楽しみでワクワクしながら仕事ができるのが魅力なんです。
料理を紹介する番組もぜひやってみたいです。ロンドンに住んでいた時はもちろん、今でも海外旅行に行くと必ずスーパーで珍しい食材をチェックして、持ち帰られるものは買って帰っています。そんな趣味を生かして、外国の料理を日本の視聴者に紹介するお手伝いができれば、と思っています。
質問17 ではズバリ、映像翻訳の魅力って何ですか?
多様なジャンルを扱うことです。基本的に勉強が好きなので、知らないことを調べることで自分の知識が増えていくことは喜びです。 作業中は調べものがはかどらず、つらい時もありますが、納品するとそのつらさはすぐに忘れます。気がつくと次の仕事はどんな素材かな?と楽しみにしている自分がいるんです。 字幕は映像にとっては脇役です。映像の邪魔をしてはいけない。あくまでも黒子の存在であるべきだと思っています。確かに字数制限は厳しいですが、映像が伝えてくれる情報もかなりのものです。映像+字幕=1となるような字幕を考えていくように心がけています。映像で分かる情報はカットして字幕を作る…その辺りのさじ加減は難しいのですが、それがまた、紙の翻訳にはない映像翻訳の醍醐味でもありますね。質問18 これから字幕翻訳者を目指す方にエールをお願いします
字幕翻訳はハコ切りやスポッティングの技術、英語力、訳した言葉を字数制限内にまとめる日本語力のすべてが必要とされます。もちろん調べ物もあり、納期は短い…と聞くと、何だか苦しいばかりに聞こえますが、間違いなく楽しい仕事ですよ。基本的には視聴者が楽しむための映像なのですから、当然翻訳だって楽しいのです。
映像翻訳が必要とされる分野はこれからますます広がっていくと思いますし、ご興味がおありならぜひチャレンジしてみてください。


