現役翻訳者のインタビュー:北島良子さん
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File no.006:北島良子さん 映像翻訳歴 :2006年5月デビュー 大学卒業後、損害保険会社へ就職。その後学生時代にアルバイトをしていた生命保険会社に転職し現在も就業中。2004年に半年間休職しボストンへ遊(?)学。2005年4月より映像翻訳の講座に通学し、2006年5月にトライアルに合格し翻訳者デビュー。 |
質問1 現在、どんな仕事をしていますか?どんなジャンルで納期はどれくらいですか?
アメリカのカーレース番組(30分)のお仕事を頂いています。
納期は1週間に1本のペースです。字幕枚数は平均して250~300程度ですが、
車のパーツを調べるのに大変苦労しております…。
質問2 映像翻訳者になろうとしたきっかけなどを含めてお話してくださいませんか?
大学卒業後すぐに就職し、現在の会社で半年間休職する制度を利用し短期留学していたのを除けば、ずーっと経理の仕事をしています。映像翻訳者になろうと思ったきっかけは、将来フリーランスという形態で仕事をしていきたいという漠然とした夢があったためです。フリーで働く限り、時には24時間(それ以上?)仕事と接しなければならない時もあるかと思います。それには「好き」の要素がある仕事でないとやっていけないと思い、24時間接することができるものは何かと考えたら「映画」でした。(当時は鑑賞することしか頭にありませんでしたが…)。旅に出るのが好きなので、「場所を選ばず仕事ができる。フリーって素敵!!」という安易な考えがことの発端ですが、逆にいつでもどこでも仕事がついて回るという大変さも抱えないといけないことを忘れていました(笑)
質問3 初仕事について教えてください。
一番最初は日本語起こしのお仕事でした。夜中にバイク便で届いたテープに映像が映っていなく、最終的に頂いたときには朝になっていて(笑)そこから急いで始めたのですが、全然納期に間に合わなくて…最初のお仕事から、かなりへこみました。“納期は絶対”を最初から破ってしまい、もう仕事はこないと思っていました。手には汗、焦れば焦るほど集中できなくなり、3時間くらい遅れて納品したときには、やり終えた充実感など微塵もなく残ったのは疲労感だけでした。その後スポッティングチェックのお仕事を3本ほど頂いた後、犯罪捜査のドキュメンタリーで初めて字幕のお仕事をいただきました。それまでトライアルの1.5日間で100枚が自分の最高字幕作成数だったので、いきなりその3倍近くの量をこなさないといけなくなり、手際も悪く1週間の納期をいただいていましたがギリギリまでかかり、ここでも充実感より疲労感のほうが大きかったです(笑)そんなこんなでビクビクしながら提出して、演出をしていただき、試写をさせてもらったとき、「本当に世に出る商品(映像)に携われたんだなぁ」と実感がわき、初めて達成感を得ることができたのを覚えています。
動物のドキュメンタリーで赤でコメントだらけのチェックバックが戻ってきたことがありました。今までで一番ショックだった経験です。一回ファイルを開いて、すぐに閉じました。見るのが怖くて…。でもチェックバックしてくれるっていうことはとてもありがたいことなんだと演出の方に励まされ、それまで心の片隅で「誰かが直してくれるだろう」という甘えがあった自分と向き合い、その考えを改めるいい機会になりました。
質問4 平日は会社員として仕事をして、他の時間を翻訳に使っていると聞きました。どのような一日を過ごしているのですか?
まだSSTを自宅に所有していないので、会社帰りに翻訳会社にお邪魔してスポッティングをやらせてもらっています。1回に2時間位使用させてもらっています。まだまだ作業に時間もかかるので、スポッティングチェックも含めると2時間では終わらず、翌日も会社帰りにお邪魔させていただいています。そして土日を翻訳作業に当て、月曜日再度お邪魔させてもらいインポート作業と最終チェックをして翌日朝納品しています。
質問5 自宅だけでなく現場で仕事をすることの利点は何ですか?
利点はその場で質問できることです。シリーズ物の場合は次回からの決まりごとが更新されていくので、担当の演出の方とある程度の作品の方向性を直接会ってお話できることはとても貴重なことだと思います。SSTはすぐにでも欲しいです。映像に直接字幕を載せながら作業したほうが効率的ですし、なんと言っても字幕の出来が違ってくると思います。でも、第一の目標を「スクール代を稼いでからSSTを買う」ことに設定したので、もう少し現場にお邪魔させてもらうつもりです。現場で作業をしていて感じることは、コーディネーターの方も演出の方も抱えているお仕事は当然ながら1つではないということです。私が伺う夜でも皆さんお仕事中ですし、たくさん電話が鳴っていますし…。つまらないミスや・連絡不足などで皆さんの貴重な時間を無駄にすることのないようにしたいと思います。
質問6 今、翻訳学校出身の翻訳者の数は増えていると聞いています。プロとしてキャリアを積むために、工夫していることはありますか?
翻訳以外の作業も経験してみたいなと思っています。映画に何かしらの形で携わる仕事をしてみたいという目標はあるのですが、まだ道を翻訳1本に決められていません。1つの作品が出来上がるまでに何十人もの方が色々な作業で関わっていると思います。それらを実際に経験してみたい・知ってみたいというのが今の心境です。それと、もう少し会社で勤めて人と接していきたいなと思っています。私の性格上、フリーになると一歩も外に出なさそうなので(笑)
質問7 得意分野はありますか?
ここが今の悩みどころです。趣味を極めていないので強みが見当たらない…なので、今は何でもチャレンジしてみて得意分野を探したいと思っています。スポーツは昔から見るのも、やるのも好きだったので、得意分野かなと思います。絶対自分では見ないという分野の映画や番組をお仕事でいただいた際に、苦しみながら調べて、結構最後のほうには、楽しんでいる自分に気付きます。いろんな分野の知識が増えていくのは楽しいです。
質問8 では、過去にさかのぼって、翻訳学校のことを教えてください。学校では具体的にどんなことを学ぶのですか?
字幕の基本的ルール(ハコ書き、1秒4文字、改行位置、字幕位置、テロップの出し方、表記の注意など)から始まり、ドキュメンタリーの場合・ドラマの場合などジャンル別の注意事項、裏付け調査の必要性、心得までと書ききれないほど教わりました。私の受講したときのクラスはとっても活気があったので、講師の方から一方的な講義というよりいつもワイワイ、ガヤガヤ(笑)質問や意見が飛び交う授業の中で、1枚の字幕、1つの表記をとっても人によって受け取り方が違うので、誤解のない字幕作りを心がけることを学びました。
質問9 学校の勉強で一番仕事に役立ったのは何ですか?受講前と後で何か気持ちの変化は?翻訳についての見方が変わりましたか?スクールでどのような指摘(よい部分、直すべき部分)を受けたのですか
何にも知らずに飛び込んだ世界なので、基本的なルールはもちろんのこと、字幕の美しさ(字面)も重要だということを教えていただきました。“意味が合っていても美しく、読みやすくないといけない”語学力・調査力も当然のこと、芸術的センスも必要だと思いました。“一人よがりの字幕にならないこと”をとにかく教えていただきました。それから、“枝葉を殺ぎ落としていくこと”ですね。スクリプトに載っている文を全部字幕にすることができない場合、どれが重要な要素で、どれを落としていいか。そこでも一人よがりにならず、作品にとって重要な部分をいかに見つけていくかが重要だということも教えていただきました。今まで何気なく見てきた字幕や吹替の映画やドラマ・番組に想像を絶する労力がかけられていることが分かりました。「大変な世界に足を突っ込んでしまった…」と思った次第です。
質問10 学校卒業後どのくらいの期間で仕事をいただけるようになったのですか?
卒業後は毎週の宿題から開放された喜びで1ヵ月くらい遊んでからトライアルを受け、SSTの受講をしました。終了後1~2週間後に日本語起こしのお仕事をいただき、それからピンチヒッターで芸能ニュースのライターのお仕事・スポッティングチェックのお仕事をいただき、字幕のお仕事は、トライアル通過後3ヵ月後くらいでした。
質問11 トライアルは難しいですか?
内容は分かりやすかったです。問題は1日半で100枚程度の量をこなすことでした。講座でも毎週宿題が出されていましたが、1週間で約100枚だったので、しかも私はいつも宿題をダラダラとやるタイプだったので…ちょっと焦りました。講座中にもう少し自分のペースを把握しながら宿題をやっておくべきでした(笑)表記ルールなども、「どうするんだっけ?」と授業のプリントを何度も見返したりしながらやりました。どんなときでも何かを意識してやらないとあとで困りますね…
質問12 スキルを磨くために、日々気を付けていることは?仕事をするときに気をつけていることは?
実は昔から文章を書くことに苦手意識がありました。読書感想文とか大嫌いで…それを少しでも克服するようにと映像翻訳の勉強を開始した時期からブログを書き始めました。聞いたり言ったりしたことはあるけど、文章に書いたことのないような言い回しをなるべく使うようにしています。その際は辞書で調べます。漢字や・送り仮名はもちろんですが、本来の意味なども分かって勉強になります。
改行の位置・スペースの使い方も工夫して読みやすくしていますね。
それとダラダラと文章を書くのでなく、長くても的確な文章、理解しやすい文章を心がけています。本当は英語の勉強もしないといけないのですが…文章は書き始めると、良し悪しは別として書き慣れてきて、次第に何を伝えたいのかがハッキリしてくるので、少しは翻訳に役に立っているかなと思います。映画やDVDを見るときは、意識しなくてもやはり字幕に目がいってしまいます。言葉自体もそうですが、どの情報が入って、どの情報が落ちているのかなど気にしてしまいます。気にしないで見たいのですが…もうダメですね。仕事をする上で気をつけていることは、ルール・納期を守ることと、質問があったら聞くことです。悲しいですが、語学力や言葉の引出しは急激に伸びるものではありません。しかし規則は別です。単純な確認を怠ったためにコーディネーターや演出の方に迷惑がかからないように気をつけています。
質問13 活用している資料、辞書、WEBサイトは?
英辞朗さまさまです。不安な言葉は広辞苑で、同じ字幕が続いてしまうときは、類語辞典などで違う言葉がないか探したりします。それとバビロンというドラッグしてコントロールボタンを押すだけで意味がでてくる辞書を使っています。スペルを打たなくていいので便利ですし、多言語に対応しているので、たまに英語以外の外国語がスクリプトにあるときなどは便利です。あとは、ドキュメンタリーの際には
その分野の簡単な辞典、雑誌などを購入して単語や文章の言い回しなどを参考にしています。
質問14 好きな映画のことを教えてください。思い出に残る作品はありますか?
私が始めて「外国の映画って面白い。彼らと同じ言葉を話してみたい」と思った作品は『グーニーズ』です。小学生の頃、同じくらいの歳の子供たちが活躍するアドベンチャー映画のとりこになってしまいました。それからというものの、同級生がアイドル雑誌を買っているなか、1人映画雑誌を購読していたませた小学生でした。それから大切な映画は『スタンド・バイ・ミー』です。何十回見ても私にとっては特別な映画です。大学を卒業する間際にキャンプをしながら1ヶ月間でロサンゼルスからニューヨークまで横断したことがあります。毎日何時間も車に乗って、行く先々で空の色も大地も人も街の景色も、がらっと変わる。感動の毎日でした。アメリカの風景が写っているロードムービーは大好きです。『パリ、テキサス』はビデオを静止して一枚一枚写真にとっておきたいくらい大好きな風景が写っている映画です。おなじ監督の『アメリカ,家族のいる風景』もいいですね。セリフがバンバン飛び交う映画よりもどちらかというと行間を読む系の映画が好きなのかもしれません。イギリスのコメディーかつホロっと涙するような映画も大好きです。最近は邦画が面白くて、昨年の私の年間ベストは『かもめ食堂』でした。
質問15 今後、どんな作品の翻訳をやりたいですか?
まだまだヒヨッコですが、字幕は想いが凝縮された一種の芸術作品だと思うのです。字幕1枚に書かれたセリフで人生が変わる場合もあると思います。そんな誰かの心にグッとくるような字幕を作れるようになりたいです。いつの日かロードムービーの映画に何かしらの形でかかわりたいですね。そして映画の舞台に行って、写真を撮ってオフィシャルブックとかも作ってしまったり!!さらに妄想の世界の話ですが、1年のうち3ヶ月くらい旅に出ていたいので、24時間充電が持つパソコンとどこにでも無線LANがあって、旅をしつづけながらお仕事できるような生活をしてみたいです。
質問16 ありがとうございます。では最後に北島さんにとって、映像翻訳の魅力って何ですか?
私、就職活動で思いっきり失敗したのです(笑)その頃就職氷河期だっていうのに、何にも考えてなかったんです。周りの友達が次々決まっていくのに自分は決まらない。恥ずかしかったですね。それまで挫折知らずに育っていたので(笑)結局途中であきらめました。潰しのきく職業を選びました。OLも楽しいです。会社も同僚も好きです。でも就職してからもずーっとひっかかっていました。最後まで活動しなかったこと。本当にやりたいことを考えなかったこと。外国を旅するのも好きですが、やっぱり私は日本が大好きなのです。「外国」・「日本人である自分」・「映画」。何かやりたいことを探していたときに最後に残ったキーワードでした。映像翻訳はビンゴでしたが、自分にはできないと思っていました。でもその時の自分の能力で、できる範囲のことばかりやるのはやめようと思ったのです。まだ勉強を始めてから3年も経たず、映像翻訳の魅力を語れる経験がないのですが、勉強をはじめてから自分でも変わったと思うことは、いろいろなことに感謝するようになったこと・尊敬できる人が世の中にたくさんいると思うようになれたこと・ささいなことが嬉しく感じるようになったことです。毎月あたりまえのように貰っている会社のお給料も、あたりまえの権利だと思っていた有給休暇もボーナスも、本当にありがたい(笑)翻訳にかぎらず、腕に職を持っている方々がいつも全力で仕事をするプロ意識もすごい。納期までに出し終えて、その夜にスーパーに行って、料理をする余裕があるのがたまらなく嬉しい。時間をやりくりして、大好きな人たちと遊ぶのも、本当に楽しくてたまらない。まだ会社員との掛け持ちで、少々ずるい気もしますが、今はそのほうが心が安定するのでしばらくは二束のわらじを履いたまま続けて行こうと思います。ラクして楽しい人生を送るのが理想ですが、そううまくいかないですね。やっぱりNo pain No gainなんですかね。
昼間は会社員として働き、夜と週末に翻訳の仕事をこなしている北島さん。二束のわらじは決して楽なことではないと思うのですが、全力投球している姿は、多くの翻訳者志望の方の励みですね。
あたりまえのように思っていたことに感謝の気持ちを抱けるようになったという気持ちは、どの仕事にも共通することではないかと感じます。これからも、いろいろな作品を訳して私たちを楽しませてください。


