現役翻訳者のインタビュー:本田恵子さん

File no.004:本田恵子さん

映像翻訳歴 : 5年
韓国文化のかけ橋として、字幕翻訳者・通訳・字幕翻訳講師、何でも挑戦!
 
大学卒業後、航空会社やエンタメ会社に勤務。‘02~フリーランスの映像翻訳者に転向。SST(字幕ソフト)の技術を学び、現在ドラマ、コメンタリーなど字翻翻訳者として活躍中。

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質問1 まず、現在手がけている映像翻訳の内容を簡単に教えてください

現在担当しているのは、“ファミリーもの”と“ラブストーリー”がミックスされたような韓国ドラマです。数人の登場人物が織り成す人間模様と、各々の恋愛が展開されていくのですが、これもやはり“大金持ちの男と施設で育った女”という身分の差を乗り越えてのシンデレラ・ストーリーです。韓国ドラマの王道をいっている内容ですね。

質問2 今のお仕事に就く前には、どのようなことをされていたのですか?

大学卒業後はまず航空会社に就職し、そのあとは約5年間エンターテインメント業界で仕事をしていました。K-1に出場できるような韓国人選手を探したり、その他、韓国のエンタメ会社とのやり取りが主な仕事でしたね。社内では韓国語の通訳・翻訳を任されてはいましたが、韓国とは関係のないプロジェクトの担当に就かされることも多く、納得のいく仕事環境とは言えませんでした。


質問3 映像翻訳を極めると決意したきっかけは、どんなことだったのですか?

エンタメ会社での仕事に疑問を感じ始めた頃、フリーの韓国語の通訳・翻訳者になろうと思いました。自分がしっかり働いているという実感を得たかったので、会社に属さず、フリーになりたくて仕方なかったのです。そんな時、韓国の方が経営するエンタメ会社から字幕制作の依頼が舞い込んできました。通訳や翻訳の経験はありましたが、映像翻訳においてはまったくの初心者だった私・・・。かなり不安でしたが、ほかに仕事もないので引き受けるしかありませんでした。字幕の基本ルールさえ知らない私に、画像とSSTだけが手渡されたのです。今考えると、その会社もかなりのチャレンジャーですよね(笑)。「冬ソナ」人気がじわじわと高まっていた時期で、韓国ドラマが突如として増えた時期でもありました。ですから韓国語の映像翻訳者が足りず、初心者でも借り出されるケースは珍しくありませんでした。私もその中の1人だったわけです。私の場合は、映像翻訳者になろうと決める前に、とにかくやるしかないという状況に置かれていたのです。

質問4 具体的に、どんなふうに勉強したのですか? 独学?制作現場?学校?

私は何の下準備もなく突然、字幕を任されてしまったので、とても苦労しました。映像翻訳の基本ルールも分かっていないのに、まともな字幕ができるはずもありません。それなのに、これまた人手不足で次のドラマも決まってしまいました。きっかけはすべて与えられたものでしたが、そのうちに映像翻訳の奥深さに気づき、もっと多くの作品を日本人に見てもらいたいという気持ちが芽生えてきたのです。やればやるほど映像翻訳の魅力の虜になったのです。それは、字幕の仕事を始めて1年くらいが経った頃でした。
良い字幕でなければ、視聴者の方々にも迷惑をかけますし、自分でも納得できません。そこで、きちんと学校へ行って習うことに決めました。そしてネットで見つけたのが某翻訳会社のSST講座でした。そこでは主にスポッティングについて教わりました。「目からウロコ」状態だったのを覚えています。
当時は韓国語での字幕講座などをしている専門学校はなく独学しか方法がなかったので、私は有名な先生方が字幕を担当している映画を見まくりました。それから、仕事上で指導されたことを必ず守るように努力をしていました。

質問5 韓国語翻訳の需要は2000年から急激に増えています。やはり翻訳者の数は足りないのでしょうか?

そうですね、ここ数年で入ってくるコンテンツ量は倍増しているのに、翻訳者育成の分野がとても遅れています。そのため、翻訳者が慢性的に不足しているのは当然のことだと言えるでしょう。「映像翻訳はある意味で職人業だから、一人ひとりが経験の中で腕を磨けばいい」と考えている人も多いのでしょうが、やはりそれでは効率が悪いんです。ひと昔前は劇場版くらいしか訳すものがなかったので、一握りの翻訳者が時間をかけてその技術を学べばこと足りていたのでしょうが、今は状況が違います。地上波、CS放送、DVD、インターネット放送、色々な媒体への供給があります。さらに、翻訳者以外にもチェッカーや演出担当も必要になりますので、映像翻訳の技術をきちんと身につけた翻訳者を一定期間でしっかり育成してゆく必要があります。

質問6 現在の韓国語翻訳事情についてお話をしていただけませんか?

表向きには韓流が収まっているように見えますが、コンテンツの量から見ると、そうでもありません。なぜならば、以前はなかったような韓国語の専門チャンネル(CS)ができたので、新作のドラマは必ず入ってくるからです。劇場版のほうも、本数が激増しています。また、レンタル店などに行けば一目瞭然ですが、「韓国ドラマ」は1つの分野として確立されました。あれだけの量の棚を韓国ドラマが占領しているわけですから、今の韓国ドラマは「マニアだけが見るドラマ」とは違うのです。
 というわけで、今だ翻訳者は足りていません。しかし、翻訳者の数自体は徐々に増えています。「翻訳者が増えているのに足りない」という現象は、“質の高いレベルの字幕を作れる翻訳者”と“初歩レベルの翻訳者”との落差にあります。増えているのは後者の翻訳者だというわけです。どこの会社も“質の高いレベルの字幕を作れる翻訳者”に仕事を依頼するので、そこに仕事が集中してしまうと1人では到底こなせない量になってしまいます。そして結果的に翻訳者不足という状況になるわけです。

質問7 本田さんは韓国語字幕の講師もしていますね。韓国語翻訳者の層を厚くするためですか?

韓日の字幕の質をあげるためには、多くの翻訳者が切磋琢磨し、競争をし、ある意味で淘汰されていかなければなりません。そのために、映像翻訳者になりたいという人たちの育成は不可欠だと考えています。英日の翻訳者さんのレベルを考えると、やはり雲泥の差があると感じるからです。多くの志願者が字幕翻訳を学べるという環境を作ることで、韓日の字幕の質を上げることになるのです。私もまだまだ未熟な翻訳者なので大きなことは言えませんが、“翻訳者育成による字幕の質の向上”に対する願いは強いですね。

質問8 現在のお仕事のペースについてお話ください

今の状況ですと、お引き受けできる仕事量はドラマで週2本ですね。その他、現在は専門学校で字幕講座の講師を週2度受け持っており、4月からは週に一度、大学で講義を持ちます。これで手一杯なのですが、たまに急ぎの仕事などが入ると、単発のコメンタリーや特典の仕事を受ける場合もあります。

質問9 大変な仕事量ですね。スキルを磨くために、また仕事時間を確保するためや、家庭との両立はどんな工夫をしているのですか?

本当はもう少し上手に時間を使いたいのですが、最近は仕事に追われている毎日です。でも長時間家に閉じこもって仕事をしていると、ストレスは溜まりますし、それによって頭の回転が鈍ってしまい良い訳が浮かばなくなってしまいます。そんな時の特効薬は、やはり夜遊びですかね(笑)。色々な分野のお友達とおしゃべりしたり、踊ったり…。そうすればリフレッシュできます。こんなふうに“仕事”と“遊び”を自由にさせてくれる「夫の理解」が、私にとってはとても大きいと思っています。私の仕事に口を出すこともなく、やりたいことをする私を見守ってくれている人がいることで、より仕事のしやすい環境が作られているのだと思います。

質問10 周囲の理解がとても大事なのですね。他にも、今のお仕事をしていく上で、一番大切にしていることは何ですか?

色々ありますが、特に大切だと思っていることは2つあります。1つは仕事を頂いているクライアントさんとの信頼を深めるような付き合い方をすることです。今している仕事だけでなく、「次もこの翻訳者さんに頼みたいな」と思われるような対応をすること。それから自分の字幕をいつも疑うこと。主観的な見方だけでは、正しいといえない部分が必ずあります。その部分を必ず第三者の目を持ってチェックするよう心がけたり、ネイティブチェックを欠かさず行ったりしています。

質問11 そのような心境になったのは、何かきっかけがあったのですか?

「きっかけ」というのは特にありません。ただ、4年半仕事をしてきた中で学んだことだと言えるでしょう。「スムーズに仕事ができる環境作り(クライアントと翻訳者における)」を心がけて実践していれば、おのずと信頼関係が築かれ、字幕の質の向上にも繋がると考えています。お互いに様々な意見を言い合える仲であれば、良い字幕が作り上げられるはずです。ですから、字幕制作に関わる人たちと気持ちの良い関係を築くことは、とても大切だと思っています。

質問12 映像翻訳者であることも大事ですが、その前に一人の人間としてどうかということが大事なのですね

まさに、その通りだと思います。

質問13 本田さんご自身の、今後のビジョンを教えてください

今後もたくさんの作品を訳したいと思います。経験することでしか学べないことがたくさんあるからです。コツコツと長年続けて、おばあさんになってもこの仕事をしていることが、私の夢です。また、韓国語の字幕翻訳者の育成にも力を注ぎたいと思っています。繰り返しになりますが、大勢の翻訳者ができることで、各々が切磋琢磨をし、良い意味で競争するようになれば韓国語の字幕の質も上がると考えているからです。

質問14 では、これから韓国語の映像翻訳者になりたいと考えている方に対して、何かアドバイスをお願いします

前述したように字幕翻訳者やチェッカーなどの仕事はいまだに人員不足なので、今からでも努力をすれば、この業界で仕事をするチャンスはまだ十分あるはずです。まず字幕制作の基本を学べるような講座を選んで学び、可能性を広げてみては?

質問15 では最後に本田さんにとって、映像翻訳の魅力って何ですか?

時には、たった1つのフレーズをうまく表現できずに丸一日悩んでしまうこともあります。文字数制限などの制約がある中で、原語のニュアンスを読み解くことの難しさを痛感させられる部分も、もちろんあるわけです。逆に、伝えたいことがきちんと表現できた時は、大きな充実感を得られる。このように、私は日々言葉の力に驚かされています。セリフ1つの表現の仕方で、すべてが変わってしまう。そのような、「言葉の魅力」を肌で感じることができる“映像翻訳”は、私にとって最高の仕事です。元々、言葉が好きで大学では外国語学部を選んだ私。その言葉を使い、色々な韓国の作品を伝えていくことを仕事にできたことは、幸せなことだと思っています。

ありがとうございました。
21世紀になって火がついた韓国語翻訳。本田さんには、仕事への情熱から未来へのビジョンまで、事細かに最近の翻訳事情なども詳しくお話を伺うことができました。「翻訳者である前に一人の人間として自分はどうか?」という視点はどの仕事にもあてはまると思いました。ぜひ、今後も韓国語翻訳者として、私たちを楽しませていただきたいと思います。


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